まちへ、森へ。

ラグビーワールドカップ2019観戦記

令和元年(2019)9月20日、遂に始まったラグビーワールドカップ2019。主たる会場の一つとなった横浜国際総合競技場(日産スタジアム)で行われた、アイルランド対スコットランドの試合(9月22日)を観に行く。いずれもグループリーグで日本が対戦する相手であり、決勝トーナメント進出のためには越えなければならない高い壁。

 

 

 

鳥山川(とりやまがわ。鶴見川支流)に架かる西ゲート橋側からのスタジアム。

 

新横浜駅からのアクセスであれば東ゲート橋が近いが、今回は岸根(きしね)交差点付近の又口橋(またぐちばし)バス停から新横浜駅前公園(鳥山川沿いの緑道)を通ってスタジアム入り。

 

 

 

キックオフより2時間以上も早い午後2時半ごろ。アイルランド、スコットランドのサポーターも続々と到着している。

 

 

 

横浜会場のバナー。ランドマークタワーやインターコンチネンタルホテルが描かれているが、ベイブリッジが斜張橋ではなく吊橋なのはご愛嬌。

 

 

 

この大会ではCanon「自由視点映像生成システム」による臨場感あふれる映像がメディアに提供された。ラグビーワールドカップ2019・キャノンウェブ(外部サイト)スペシャルコンテンツを参照。

 

 

 

2019大会マスコットキャラクター「レンジー」。

 

 

 

大会ロゴマークとエリスカップ(優勝杯)が描かれた懸垂幕。

 

 

 

カップを掲げた歴代(1987〜2015)優勝チームのキャプテン。

 

優勝チームはニュージーランド(1、7、8回)、オーストラリア(2、4回)、南アフリカ(3、6回)、イングランド(5回)。戦歴は南半球が北半球を圧倒している。
準優勝を見ると8回のうち5回は優勝経験チームの何れかとなるが、フランスが3回準優勝(1、4、7回)している。

 

今回観戦するスコットランドは第2回のベスト4が最高成績。ただ前回のスコットランドは準々決勝のオーストラリア戦で終了間際の微妙なペナルティ判定(後に公式に誤審と発表され大変な物議を醸した)を受けてしまい逆転PGで涙を呑んでいる。
アイルランドはベスト8が最高成績。ただ今回のアイルランドは戦力充実、虎視眈々と初優勝を狙っている。

 

 

 

ロゴの背景は「青海波」「麻の葉」などといった小紋の和柄にラグビーボールをあしらったデザインとなっており、いかにも日本大会らしい。

 

 

 

三色旗を身にまとったアイルランドサポーター。

 

 

 

タータンチェックのスカートを身に付けたスコットランドサポーター。

 

 

 

西ゲート。

 

 

 

 

 

 

 

場内のビールは全て公式スポンサーのハイネケン。コンコースのドリンクスタンドでは500mlで1000円、売り子の350mlならば700円。うーむ。

 

 

 

前日のオールブラックス(ニュージーランド代表)対スプリングボクス(南アフリカ代表)に続き、ビッグゲームが組まれた横浜国際。この先にはイングランド対フランスも組まれている。

 

グループリーグの期間中に横浜で見られない伝統強豪国はワラビーズ(オーストラリア代表)、ウェールズくらい。そのワラビーズも前年、ワールドカップ本番に慣れる意味合いも込めて招かれたブレディスローカップ(オールブラックスとワラビーズの対抗戦)でこの地にお目見えした。

 

 

 

天気予報では午後遅くから雨模様。風向き次第では雨を凌げないかもしれない。

 

 

 

巡回する神奈川県警の警察官。警備体制も抜かりない。

 

 

 

それにしても噂に違わず、あちらのサポーターはよく飲む、飲む。目の前の通路を、コップ4個がセットされたホルダーを手に手にぶらさげた大酒飲みの大男達がひっきりなしに通り過ぎていった。売り子さんも大忙し。あんなペースで飲んでいたら、こちとら写真を撮るどころではない。

 

 

 

青地に白いX字クロスのスコットランド国旗。

 

アイルランドはアイルランド共和国の国旗と北アイルランド旗(厳密にはイギリス領北アイルランドを含むアイルランド島北部地域の旗)が並ぶ。
ラグビーのアイルランド協会(IRFU)はサッカーとは異なり、アイルランド共和国とイギリス領北アイルランドが合同チームを編成する。

 

 

 

ウォーミングアップに現れた選手たち。

 

 

 

アイルランドジャージのエンブレムはシャムロック(クローバー)。スコットランドジャージのエンブレムはアザミ。

 

アイルランドラグビー協会が用いる協会旗はシャムロックを中心にアイルランド島4地域の紋章があしらわれている。

 

 

 

国旗の入場と国歌(ナショナルアンセム)斉唱。

 

 

 

ラグビーアイルランド代表のアンセム「アイルランズ・コール」。ホームゲーム以外ではこの歌のみが歌われる。

 

アイルランド代表のホーム「アビバスタジアム(旧ランズダウンロード)」(ダブリン。50,000人収容)ではアイルランド共和国の国歌(ナショナルアンセム)の「ソルジャーズ・ソング」と「アイルランズ・コール」が歌われる。かつてはホームでも「ソルジャーズ・ソング」のみだったが、北アイルランドに配慮して1995年ごろにラグビー代表チーム用のアンセムが作られた。
大迫力の「ソルジャーズ・ソングとアイルランズ・コール」(YouTubeへリンク)。なお動画のスタジアムはアイルランド独自の国技であるゲーリックフットボール(ゲーリックゲームズ)専用スタジアムであるクローク・パーク(ダブリン。82,500人収容)。ランズダウンロードが取り壊された期間中(2007〜2010)に例外的に利用が許可された。

 

 

 

スコットランドの国歌「フラワー・オブ・スコットランド」。スコットランドのホーム「マレーフィールド」(エディンバラ。約68,000人収容)ではバグパイプ隊による荘厳な伴奏が吹奏される。2019RWCでもせめて音源にバグパイプの伴奏を用いてくれたら嬉しかったのだが、まあ贅沢は言うまい。
大迫力の「フラワー・オブ・スコットランド(マレーフィールド)」(YouTubeへリンク)。

 

フットボールの母国・英国ではかつて独立国であった地域が英国四協会(ホームユニオン)ごとに個別に国代表を選出するので、スコットランドやウェールズではいわゆるイギリス(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)の国歌でもあるイングランド国歌「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」ではなくそれぞれの国歌が歌われる。
ちなみに海外遠征では四協会の連合チーム「ブリティッシュ(&アイリッシュ)・ライオンズ」が編成されることもある。

 

私見だが公式の場で国歌として親しまれている歌に敢えて「事実上の」という形容詞は不要だろう。日本の国歌「君が代」も国旗国歌法が制定され「法律上の」国歌となるまでは「事実上の」国歌だった、ともいえるのだから。そしてフットボールというカルチャーの世界で国連加盟の独立国の一地域がそもそも国家なのかを云々するのも野暮というものだ。

 

 

せっかくなので、ウェールズ国歌「ランド・オブ・マイ・ファーザーズ(ミレニアムスタジアム、カーディフ。74,500人収容)」、
イングランド国歌「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン(トゥイッケナム、ロンドン。82,000人収容)」もどうぞ(YouTubeへリンク)。
なお2015イングランド大会ではサッカー専用のウェンブリー(ロンドン。90,000人収容)、総合競技場のロンドン(オリンピック)スタジアム(60,000人収容)も利用された。

 

 

 

16時45分、スコットランドのキックオフでゲーム開始。

たしかにマレーフィールドやアビバスタジアムで自国の代表チームを観戦してきたあちらのファンの人たちにとって、横浜国際のピッチは陸上トラックが周りにある分だけ迫力にやや欠けると感じるだろう。日本のラグビーファン、サッカーファンの間でも陸上競技兼用のスタジアムでの観戦には否定的な人がずいぶんと増えた。それは正論であろう。
関東でいえば秩父宮ラグビー場(東京青山)で味わう生観戦の迫力は、行った者でなければわからない。私だって秩父宮でのテストマッチ(代表戦)観戦としては初めてだった日本対フィジー戦(1990)、主力メンバー落ちだったとはいえスコットランドを撃破する金星を挙げた平尾主将率いる宿沢ジャパンが、変幻自在なパスワークとランで相手ディフェンスを撹乱する「セブンス王国」フィジーのアタックの前に為すすべもなく完敗した衝撃は、今でも忘れない。
しかし、今大会で初めて来日した外国人サポーターたちのなかには「日本のフットボール文化は発展途上だと思っていたが、ラグビーワールドカップのためにこれだけ巨大なスタジアムを用意できるならそれはそれで大したものだ」と感じてくれる人もいるだろう。

 

思うに日本のフットボール文化の水準のなかで60,000人以上収容できるスタジアムを全国に何か所もつくって、それらを維持していけるのかという現実問題は重くのしかかる。
そもそも日本の競技場は戦後に始まった国民体育大会が各県の持ち回りにより開催されてきたなかで、大会のメインスタジアムとして各県に総合競技場が整備されてきた。そして唯一の6万人収容スタジアムとして旧国立競技場が存在した。1993年にサッカーJリーグが発足するまで、フットボール専用の球技場は横浜市の三ツ沢球技場を始め2万人に満たない規模のものが殆どだった。そうしたなかにあってもラグビー界では秩父宮や花園ラグビー場(東大阪)といった2万5千人クラスの専用競技場が比較的古くから存在した。

 

横浜市が1998年の(通算二度目となる)神奈川国体や2002年のサッカーワールドカップに利用してもらうため、さらには2008年のオリンピック横浜招致を目論んで1990年代初頭に旧国立を上回る72,000人収容の巨大スタジアムの建設に踏み切ったからこそ、こうしてラグビーのために利用できる6万人越えのスタジアムが存在する。6万人越えの大観衆が大声援で後押しする迫力は、何ものにも代え難い。
現在では発足後25年余りを経過したJリーグで4万人クラスのサッカー専用スタジアムが新たに幾つか造られている。日本のフットボール文化の更なる発展期はまだまだこれから。現状では6万人を超える大観衆の中でホームユニオン同士の真剣勝負をこうして日本の地で観戦できることには、むしろ幸せを感じる。何事も一足飛びには進まない。

 

 

アイルランドがペナルティキックをタッチに蹴り出し、マイボールラインアウト。

 

この日のスコットランドは規律(ディシプリン)がやや緩く、密集戦でペナルティを喰らってはタッチキックで押し込まれがち。

 

 

 

ゴールライン前の攻防、アイルランドのマイボールラインアウトからフェーズを重ねてきたフォワードがモールでボールを押し込み最初のトライ。

 

 

 

この日最初のスクラムは前半20分近くなってようやく巡ってきた。霧雨でボールが濡れる不良コンディションだったが、両チームともノックオンといった小さなミスをそれほど犯していない。そこはさすがに手堅い。

 

 

 

前半20分ごろ、アイルランド陣22mライン付近でペナルティを得たスコットランドがPGで3点返す。

 

スコットランドはこんなコンディションにもかかわらずボールをオープンに散らし、隙を見てはハーフ団のキックでアイルランドディフェンスの裏をかく自らのスタイルを貫いた。しかしアイルランドディフェンスの規律はしっかり保たれており、ゲインライン上の密集戦でペナルティをほとんど犯さなかった。結果として、スコットランドの強みであるレイドローの飛び道具による得点をこのPG一本に封じ込めた。

 

 

 

アイルランド陣深くでスコットランドボールのラインアウトから一連の攻撃。しかしアイルランドの規律を保ったディフェンスの前にチャンスを生かし切ることができず。逆にアイルランドがボールを足にかけてカウンター、一気に押し戻されてしまう。

 

 

 

転々と転がっていったボールがゴールポストにあたって跳ね返ってくる不運もあってスコットランドのキャリーバックとなりアイルランドボールの5mスクラム。そこからフォワードでサイドを突いて押し込み、3本目のトライ。

 

 

 

スコットランドにとってはあまりにも流れが悪い。

 

 

 

スコットランドもアイルランド陣内に攻め込んではいるが、どうしても得点を取りきれない。この試合はとにかくアイルランドの規律を保ったディフェンスが光った。さすが、2018年シーズンのシックスネイションズ(6か国対抗。英国四協会、仏、伊)を制した勢いを維持しつつ世界ランキング1位(大会開幕時点)で乗り込んできただけのことはある。

 

 

 

インゴールでアップをするリザーブの選手たち。

 

 

 

ハーフタイム。アイルランドの三色旗がうねりながら移動していく。自分が着席した座席のどこか後方から、バグパイプの音色が響く。
ハーフタイム恒例のカラオケタイムは「カントリーロード」(TeatroH様のチャンネル。YouTubeへリンク)。

 

相対する両チームのサポーターが和気あいあいとスタンドに混在するのもまた、ラグビーの魅力。サッカーや野球では(大多数は善良なファンなのだが)「なんだよあいつら」と眉をひそめてしまうような客が残念ながら多少は存在する。しかしラグビーファンにはスタンドの座席を破壊して暴れる凶暴なフーリガンはおろか、つまらぬ煽りから小競り合いを起こすような観客さえも国内外を問わず存在しない。

 

 

 

空は相変わらずの霧雨だが、ハーフタイム頃から雨量が多くなってきた。屋根のヘリから水滴がボタボタと落ちてくる。

 

 

 

 

 

 

 

後半開始から5、6分ごろ、負傷者の治療で時計が止まる。この日は激しいコンタクトで傷む選手も多く、前半もスコットランドの右フランカーが負傷、カートに乗せられて退場した。

 

時計が止まっている間、場内には我らが横浜DeNAベイスターズのホーム・横浜スタジアムでもお馴染みの「Kernkraft400」(ケルンクラフト400・ゾンビネーション)(MovieBay様のチャンネル。YouTubeへリンク)が流れ出す。思わず「ヤ・ス・ア・キ!」と叫びたい衝動に駆られるが、ここ横浜国際でそれをやってしまったら大いに浮いてしまうこと必至。もう若くもないし。

 

ちなみに2002年のサッカーワールドカップでもそうだったが、今回も外国からのサポーターが「yokohama stadium」へ行きたい、とやらかしてしまい関内(かんない)の「横浜スタジアム」に行ってしまったというケースがちらほらあったそうだ。「int'l」を付けないと全く違うスタジアムになってしまうということは、外国人の皆さんにはちょっとした盲点なのだろう。横浜駅あたりで行き方を尋ねられれても、その格好からして明らかにラグビー・サッカー系のファンに対して間違えて横浜スタジアムを案内する人はもういないと思うが、今回はスマホで自分で調べたばっかりに間違えてしまったという人も多そうだ。

 

 

 

前日に引き続き、6万3千人越え。ラグビーで日本代表の絡まないカードにしてこれだけ入るのだから、本当にすばらしい。それもこれも、前回大会で日本代表が南アフリカ代表(スプリングボクス)を破るという衝撃でラグビーに対する世間の注目度を一気に高めたことが大きい。横浜国際で行われるグループリーグの最終戦となる日本対スコットランドの一戦は、ホームならではの大声援できっと凄いことになるだろう。

 

とはいえ最大で72,000人収容のスタジアムで、公式チケットサイトには「在庫なし」と表示されているのに、この数字。公式サイト一般販売以外へのチケットの割り当てはどの程度だったのだろうか。過去には2002年の決勝やクラブワールドカップで6万8千人くらいの入場者数を記録しているので、決勝トーナメントではもっと入るだろうか。

 

 

 

ノーサイド(試合終了)。

 

 

 

スタッツが表示された。ミスタックル、ラインブレイクの数で両チームに差が出ている。アイルランドのペナルティは後半15分以降、スコットランドが「21点(3トライ3ゴール相当)も差をつけられてしまったのでもうPG(3点)を狙っている場合ではない」となって以降に規律が緩んで犯したものが多い。

 

 

 

勝者、敗者が交互に花道をつくって相手を迎える。ラグビーではごくありふれた光景だが、このワールドカップでラグビーを初めて観る人たちにはとても新鮮に映ったようだ。ラグビー文化の一端が知られていって、ちょっと嬉しい。

 

 

 

興奮冷めやらぬ大観衆。

 

 

 

勝利の余韻に浸り、歓声を上げるアイルランドサポーター。

 

 

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