平成30年(2018)3月下旬の春休みシーズン、見頃を迎えたミズバショウを観に箱根湿性花園へ。続いて金時山(きんときやま。1212m)に登り、足柄城址(あしがらじょうし)を巡って駿河側(静岡県駿東郡小山町・すんとうぐんおやまちょう)のJR御殿場線・足柄駅へ下山する。
2.仙石原・矢倉沢峠登山口から金時山へ
箱根仙石原、矢倉沢峠登山口から金時山に登る。矢倉沢峠登山口からの登山コースは小田原駅方面から金時山への最短の登路。山頂からは足柄峠・足柄城址方面に下山する。
※このページでは金時山山頂から先は足柄峠へ下るコースを紹介しているが、当該コースは令和二年(2020)7月以降、豪雨災害による登山道崩壊で通行止めとなっている。その後の状況については南足柄市公式サイト「ハイキングコース」のページを参照、確認されたい。
※令和五年(2023)3月30日に復旧、通行可能となった(南足柄市公式サイト・ハイキングコースのページにて確認)
湿生花園から歩くことおよそ15分、箱根登山バス・小田急箱根高速バス「金時登山口(きんときとざんぐち)」バス停に到着。標高およそ660m。
正面にそびえるのは金時山(きんときやま。1212m)。
バス停はローソンの目の前。
※こちらのローソンは閉店した。
箱根湯本の横浜銀行もそうだが、国立公園の箱根では屋外広告物は自治体による条例(屋外広告物条例)の定めを待つまでもなく法律(自然公園法)の定めにより茶色が基調とされている。街で見慣れた企業色(コーポレートカラー)の青い看板は、ここでは茶色。
ちなみにこちらが横浜銀行箱根湯本支店(現在地への移転前の店舗)。神奈川県民には見慣れたブルーのロゴは、ここでは「あれっ、茶色だ」となる。
ローソン駐車場の脇が登山口。
金時山への登山口は数多い。そのうち仙石原(せんごくはら)の国道138号沿いには金時登山口バス停が最寄りの「矢倉沢口」と金時神社参道から登る「神社口」、乙女峠(おとめとうげ)経由で登る「乙女口」の三か所がある。いずれも登山口の標高が高く山頂までの所要時間は1時間30分前後ということもあって、多くの登山者・ハイカーに登られている。
このうち小田原駅からのアクセスであれば「矢倉沢口」が便利。本数の多い「桃源台(とうげんだい)」行を利用して「金時登山口」バス停の一つ手前の「仙石」バス停まで来ることができ、両バス停間の距離も歩いて5分足らず。
路肩に雪がわずかに残っている。この年(2018)は春分の日(3月21日)に南関東がまさかの積雪に見舞われ、箱根では30pほど積もったと報道された。とはいえ冬と違って春分を過ぎたこの頃は連日暖かい日が続き、一週間余り過ぎたこの日はさすがにほとんどが融けていた。
登り口から登山道へ。
赤土の登山道はまだ若干のぬかるみが残る。
矢倉沢口コース(登り口〜金時山頂)の標準コースタイム(登り)は70分。
登山道に入ってから矢倉沢峠までの間はヒノキの植林地が続く。
登り始めて30分ほどで矢倉沢峠(やぐらさわとうげ。870m)に到着。
ここからは外輪山の稜線歩き。箱根カルデラの古期外輪山を形造るこの尾根は、箱根火山の中では成り立ちが古い。
矢倉沢峠から明神ヶ岳(1169m)へはこちらのページへ。
峠に建つ「うぐいす茶屋」。
矢倉沢峠から金時山を見る。なだらかな尾根には風衝地の笹原が広がり、気持ちのいい登山道。そして奥にボコッと盛り上がった金時山。
ハコネダケの笹原を軽い足取りで登っていく。
少し登って振り返り、うぐいす茶屋を見下ろす。眼前には噴気を上げる大涌谷(おおわくだに)。そして中央火口丘群の最奥は箱根最高峰の神山(かみやま。1438m)。
大涌谷。
登っていくと大きな岩が現れた。何畳くらいあるだろうか。
岩越しに眺める箱根外輪山。無線中継塔の建つ丸岳(1156m)から長尾峠、湖尻峠、三国山へと続いていく稜線。
手前に広がる仙石原にこんもりした中央火口丘の小塚山(859m)と台ヶ岳(1044m)、その奥に大涌谷と神山。
矢倉沢峠から明神ヶ岳方面も風衝地の笹原は続く。
パノラマ 拡大版
先へと進む。
金時山の山容は古期外輪山の中でもひときわ高く空に突き上げるように聳えている。これは金時山が古期外輪山の寄生火山(側火山)であって古期外輪山とはその成り立ちが異なっているため。金時山の山体は粘りの強い溶岩で、こんもりと盛り上がっている。
金時山直下の登りに差し掛かり、登山道がガレた急傾斜になってきた。
「神社口」登山道との合流点。
登り応えのある道が続く。
登山道を塞ぐ岩場。むき出しの根が岩を捉えている。
下山時には足の置き所にちょっと迷いそうな大きな段差。脚力のある人ならポンポンと飛び降りるように下っていくが、そうでないなら無理せずに後ろ向きで下るところ。
山頂に到着。時刻はちょうど12時ごろ。山頂には二軒の茶屋が建つ。こちらは金太郎茶屋。
金時山はその尖った山容ゆえ山頂はさして広くはない。
眼前には雄大な富士山。春先のお昼時、富士はやや霞んで見える。さすがに冬晴れの午前中のようにはいかない。
こちらは金時茶屋の脇からの眺め。
平日とはいえ春休みのシーズン。山頂は老若男女、また各国の登山者で賑わっている。
金時茶屋と金太郎茶屋の間に立つ道標。足柄峠(あしがらとうげ)へは茶屋の裏手を下りていく。
傍らの石祠は猪鼻神社(いのはなじんじゃ)の祠。
金時山は古くは猪鼻山(いのはなやま)といった。猪鼻山の名の由来は山頂直下から見上げたその山容から付いたともいわれるが、金太郎が山頂で死んだ猪を弔ったという伝説にちなむとの説もある。
江戸時代後期編纂の地誌「新編相模国風土記稿」巻之二十一足柄上郡巻之十苅野庄矢倉澤村、仙石原村には「猪ノ鼻ヶ岳・・或は公時山とも云う」とある。
乙女峠(おとめとうげ)方面へ延びていく外輪山縦走路(がいりんざん じゅうそうろ)。
山頂からは芦ノ湖も見える。
そして堂々たる富士山。
金時山からは足柄峠に下り足柄関跡、足柄城址を観て回る予定を立てていたが、乙女峠方面の外輪山縦走路を眺めていたらちょっと歩いてみたくなった。足柄峠に向かう前に往復一時間ばかりかけて歩いてみる。
こちらも傾斜はそれなりにきつい。
段差の大きな部分もある。これは下りた側から山頂側を撮ったものだが、登山道は大きな段差を右側へ回り込むよう、むき出しの根のあたりに案内がつけられている。下ってきたときは進行方向の左側に回り込むことになる。
このあたりも下山時の転倒事故を誘発しそうなので無理をせずに後ろ向きでゆっくりと下りたい。
道が岩の隙間となったところに、一週間ほど前の雪が残っていた。
道はよく整備されている。
下りきると、なだらかな尾根道。
乙女峠から登ってきた登山者を歓迎するかのような大展望。仙石原(せんごくはら)、神山(かみやま)、芦ノ湖を見下ろす。
現在の芦ノ湖が誕生したのは今からおよそ3,000年前。神山が水蒸気爆発の大噴火を起こし大涌谷を形成、大量の土砂が早川を堰き止めて芦ノ湖となった。右奥のゴルフ場は神山から流れ出た土砂で形成された扇状地に広がっている。
神山の山体を崩壊させた水蒸気爆発以来、箱根火山の噴火は火山学上は幾つか確認されているものの文献記録としては残されていなかった。記憶に新しい平成27年(2015)のごく小規模な噴火は有史以来初めて記録に残る噴火となった。
箱根火山のマグマだまりにはどの程度のエネルギーが残っているのだろうか。いかに文明が高度化し専門家の研究成果が積み重なってきたとはいえ、数千年単位に及ぶ地球の鼓動は人智を遥かに超えたところにある。
神山の手前となる台ヶ岳のすそ野が、数日前に野焼きの済んだばかりの仙石原のススキ草原。さらに手前側に仙石原湿原・植生復元区と「箱根湿性花園」が広がる。
尾根を先へと進めば長尾山(ながおやま。1144m)を経て乙女峠(1005m)。
乙女峠から神奈川県側の「乙女口」に下山した場合、利用できる路線バスは「観光施設めぐりバス」の「ユネッサン・天悠」行き。小田原駅方面に出る路線バスは途中の「仙石」バス停で乗り換えることになる。
一方、静岡県側の「乙女峠」バス停に下山した場合は小田急箱根高速バスを利用(空席がある場合。Suica、PASMO利用可)してJR御殿場駅に出ることができる。なお箱根登山バスの御殿場駅行き路線バスは土日は本数が非常に少ない。
このあたりで金時山頂に戻り、足柄峠へ向かう。
茶屋の間から裏手に抜け、足柄峠へ。時刻は午後1時30分ごろ。
こちらの登山道も山頂直下は急傾斜。
手すり付きの金属製階段。
このような階段がこの先何か所も設置されている。
階段の多くは踏板の幅が狭く、階段というよりは手すり付きの梯子といったほうがいい。
高度感のある眺め。
足柄峠方面は傾斜のきつい登山道ではあるが、下っていても足の置き所に迷うような大きな段差はない。ガレた岩場であっても道はよく整備されている。
金時山の北側となるこの斜面は外輪山沿いの登山道とは地質が若干異なる。外輪山沿いは箱根火山岩類の大部分を占める「古期外輪山溶岩」だが、北側斜面は寄生火山(側火山)である金時山の「金時山溶岩」として分類される。
外輪山の側面に粘り気の強い溶岩が噴出してできた火山という成り立ちは、外輪山南部の幕山(まくやま。湯河原町)に似ている。とはいえ登山道の急峻さはだいぶ異なるが。
傾斜がなだらかになってきたところで鳥居が現れた。これは山頂に祀られた猪鼻神社の鳥居。
ここまで下りも30分。山歩きは登り優先のため、登ってくる人たちを階段の上で待ちながらのんびり下ってきた。
この辺りで標高およそ990m。山頂からの標高差はおよそ220m、結構下ってきている。
この先は足柄峠までなだらかな尾根道となる。
猪鼻砦(いのはなとりで)跡の道標。
案内板。
猪鼻砦は戦国時代に小田原北条氏が築いた足柄城の支城(支砦)。
足柄城から金時山へ向けて南に延びる尾根は、ここから金時山寄りの地点で小山町新柴(おやまちょうあらしば)へと下る尾根が派生する。したがってこの砦は駿河小山の側から足柄城南方へ回り込んで進軍する軍勢に対する押さえとして機能した砦となる。
案内板のあたりは相模側(神奈川県南足柄市)の「夕日の滝」「地蔵堂」へ下っていく登山道の分岐となる。
ぐっとそそり立つ金時山。
赤松(アカマツ)の並木。
だらだらの下り。
車止めのゲートまで来た。
この辺りで地図上は中間点。
とはいえ、歩く時間は残り四分の一となる20分。
ここからは林道が砂利道になる。
やがて舗装路に。
足柄峠に到着。このあたりで標高およそ745m。時刻は午後2時50分ごろ。
このサイトは(株)ACES WEB 「シリウス2」により作成しております。