まちへ、森へ。

仙石原すすき草原と箱根湿生花園

箱根湿生花園〜秋の山野草

 

令和五年(2023)の10月中旬から下旬へと移ろう頃、箱根湿生花園を歩く。季節の企画展示はジョウロウホトトギスと秋の山野草。

 

 

午前中の早い時間に訪れた仙石原(せんごくはら)ススキ草原を後にして、箱根湿生花園へと向かう。
仙石高原バス停(箱根登山バス・小田原駅東口〜桃源台)から小田原方面(台ヶ岳バス停方面)へ少し戻る。

 

 

 

バス通りの県道から分岐する「湿原通り」へ。

 

 

 

分岐を入ってすぐの食事処「銀の穂」。

 

 

 

途中に立っている、ハイキングの道標。

 

 

 

歩くこと15分ほどで、箱根湿生花園の第一駐車場(出口)に到着。右折して正門へ。

 

 

 

カラーコーンに「湿生花園を通り抜けて仙石原すすき草原へ行くことはできません」と注意を促す案内。

 

 

 

湿生花園に到着。入口の管理棟は修繕のさなか。
入園券(大人700円。2023年10月現在)を購入し、園内へ。

 

 

 

園内案内図の隣りに掲示されている、見頃となっている季節の花々。

 

 

 

「世の中に雑草という草はない」という牧野博士の言葉をプリントした、(公社)日本植物園協会の幟。

 

2023年は9月末までNHKの朝ドラ「らんまん」が放送されていた。「らんまん」は植物学者・牧野富太郎をモデルとした槙野万太郎と妻の寿恵子の物語。ここに酒造りに魅了された万太郎の姉・綾と番頭の息子にして綾の夫となる竹雄の酒蔵の物語が絡むのだから、山野草好きにして日本酒好きの自分にとっては見ごたえ充分な最高の取り合わせの朝ドラだった。ちょっと思ったのだけど、綾さんの酒造りへの情熱って「夏子の酒」を思い出させる。NHK的には「甘辛しゃん」かもしれないが。

 

 

 

先ずは企画展示場へ。

 

 

 

この秋の企画展は「ジョウロウホトトギスと秋草展」。
ジョウロウホトトギスは「らんまん」のオープニング冒頭の映像で象徴的に映し出されていた山野草。

 

 

 

キイジョウロウホトトギス。すすき草原の見頃に合わせての仙石原散策だったため、訪れたときは残念ながらピークを過ぎてしまっていた。

 

 

 

キイジョウロウホトトギス(紀伊上臈杜鵑)の花。山地の岩場に自生する。
単にジョウロウホトトギスという場合はトサジョウロウホトトギス(土佐上臈杜鵑)を指す。土佐出身の牧野博士が土佐で発見した個体に対して最初にジョウロウホトトギスと命名した。こちらはその仲間で紀伊半島南部に自生する固有種。見た目にはほとんど同じ。
丹沢を歩く登山愛好家にとってはやはり地域の固有種であり丹沢のみに自生するサガミジョウロウホトトギス(相模上臈杜鵑)が馴染み深い。

 

 

 

こちらはキバナノツキヌキホトトギス(黄花の突抜杜鵑)。ちょうどピークを迎えていた。

 

 

 

展示の案内文には宮崎県尾鈴山の固有種とあった。こちらの花は各地でごく普通に見られる山野草のホトトギスに近い形をしている。

 

 

 

白花キバナノツキヌキホトトギス。
白花に変異したものは大変珍しいそうだ。

 

 

 

こちらはダイモンジソウ(大文字草)の園芸種。
ダイモンジソウはその名の通り五枚の花弁を大の字に付ける。そのうちの二枚が長いので星型ではなく大文字に見える。野生種は白い花が一般的。

 

 

 

「木賀の里」という品種があった。
木賀って、箱根七湯の木賀(きが)温泉かな。紅色の大文字に箱根大文字焼のイメージを重ねたのだろうか。後で調べてみると、ここには展示されていなかった(気付かなかっただけかも)「宮城野」という園芸種もあった。箱根大文字といえば宮城野青年会によって長きにわたり支えられてきたのだから、そちらも大文字焼にちなんだ園芸種だろうか。それとも仙台の宮城野に大文字と何らかの所縁があるのだろうか。

 

 

 

こちらもダイモンジソウの園芸種。ダイモンジソウって、こんなにも園芸品種が多かったのか。愛好家が沢山いるのだな。

 

 

 

「桃山」という園芸種。花弁がギザギザで縁取られた、華やかな姿だ。ダイモンジソウにしてはゴージャスなところが「桃山」たる由縁かな。

 

 

 

岩場を模した企画展示。

 

 

 

イワシャジン(岩沙参)。沢筋の岩場で見られる。

 

 

 

白花のイワシャジン。ちょっと珍しい。

 

 

 

ほかにもホトトギスとかウメバチソウとかリンドウとか、秋の山野草のオールスター揃い踏み。

 

続いて、順路に従って園内を巡っていく。
始めに落葉広葉樹林区からススキ草原区へ。

 

 

 

リンドウ(竜胆)。

 

 

 

アキノキリンソウ(秋の麒麟草)。

 

 

 

これはたぶんノコンギク(野紺菊)。なんというか、適当。

 

 

 

ヤマトリカブト(山鳥兜)。その姿はまさしく烏帽子のようであり、ニワトリの頭のようでもあり。

 

 

 

サラシナショウマ(晒菜升麻、更科升麻)。ネコのしっぽのような花穂(かすい。俗に「はなほ」と読んでもかわいい感じでいいと思う)が印象的。

 

 

 

ツリガネニンジン(釣鐘人参)。解説板によると湿生花園ではピークを過ぎたようだが、まだ残っていた。

 

 

 

ノハラアザミ(野原薊)。アザミも見分けがよくつかない。ここは解説板頼り。

 

 

 

低層湿原区へ。

 

 

 

セキヤノアキチョウジ(関谷の秋丁子)。慎ましやかな花。解説板にシソ科の植物、とある。

 

 

 

ミズヒキ(水引)。こちらもピークを過ぎているが、まだ残っていた。

 

 

 

ヌマガヤ草原区へ。

 

 

 

背の高いリンドウが群生している。

 

 

 

これらのリンドウは、エゾリンドウ(蝦夷竜胆)。エゾだけに大振りな立ち姿。

 

 

 

こちらは花が開いている。

 

 

 

池の奥は高山のお花畑と岩場植物区。

 

 

 

マツムシソウ(松虫草)。丹沢周辺でいえば山中湖の籠坂峠から登る三国山稜(甲相国境尾根から続く、丹沢のしっぽ)のアザミ平で結構な群落を見たことがある。

 

 

 

マツムシソウの背後にはハイマツ(這松)。

 

 

 

 

 

 

 

続いては高層湿原区。
ワレモコウにしては随分とデカいな、と思ったらナガボノワレモコウ(長穂の吾木香)という種だった。

 

 

 

サクラタデ(桜蓼)。

 

 

 

タデというと「蓼食う虫も好き好き」とか言われてぞんざいな扱いだけど、これは可憐なかわいい花を付ける。

 

 

 

仙石原湿原区へ。

 

 

 

園路沿いに、園内至る所で見られるワレモコウ(吾木香)。ピークを過ぎたがまだまだ咲いている。

 

 

 

こちらも園内各所に見られるコムラサキ(小紫)。園芸業界では俗にムラサキシキブとか呼ばれてもいるが、ムラサキシキブはよく似た野生種で枝は枝垂れず、やや疎らに実を付ける。園芸種のコムラサキは枝がかなり長く枝垂れ、実が枝にびっしりと付いている。

 

 

 

仙石原湿原植生復元区へ。

 

仙石原湿原は標高およそ650m。それほど高くはない地域に広がる故、放置されたままではヨシやススキといった背の高い草から低木の生い茂る姿へ、やがては森林へと遷移してしまう。戦前の頃までは村の共有地として草刈りや野焼きがおこなわれてきたので背の低い湿原植物が群生する草地として維持されてきた。そうした利用がなくなった現在では新たに人の手による各種の管理が行われることで湿生植物が自生する湿原の姿が保たれている。
こうした管理の様子について、環境省関東地方環境事務所のアクティブ・レンジャー日記(富士箱根伊豆国立公園)には火入れやヨシ刈りの様子が詳しく記されている。

 

 

 

およそ2ヘクタール(100m四方×2)の復元区には湿原内を一周する木道が渡されている。

 

 

 

奥に見えるのは台ヶ岳の山裾に広がるススキ草原。

 

 

 

 

 

 

 

金時山(きんときやま。1212m)

 

 

 

秋の七草、オミナエシ(女郎花)は花の終わった姿。

 

 

 

訪れたときは紫色のヤマラッキョウ(山辣韭)が見頃になっていた。

 

 

 

無線中継所のアンテナが建つ丸岳(まるだけ。1156m)。

 

 

 

黄金に色づき始めているヨシ。これが自然のままであれば湿原は次の段階へと姿を変えていき、広大なヨシ原湿原になってしまう。

 

 

 

ウメバチソウ(梅鉢草)も見頃に。

 

 

 

 

 

 

 

群生するヤマラッキョウ。

 

 

 

背の高いサワギキョウ(沢桔梗)はピークを過ぎているが、まだまだ咲き残っている。

 

 

 

 

 

 

 

湿原植生復元区から湿生林区への園路を出た辺りの沢沿いに咲いていたリンドウ。色があまり白っぽくなく鮮やかな青だが、ツルの延びた節に花を付けているのでたぶんツルリンドウ(蔓竜胆)だろう。

 

 

 

ウメモドキ(梅擬)の赤い実。

 

 

 

湿生林区へ。

 

 

 

サラシナショウマ。ふわふわだー。

 

 

 

見頃の花リストにあったユウガギク(柚香菊)だろうか?野生種の白い菊はそっくりなのが多くて違いがよくわからん。後で調べたら、これは葉っぱの切れ込みが深くないからノコンギクのようだ。

 

今回の仙石原散策は夕刻前にススキ草原を再訪する予定だったので、管理棟内の休憩所での昼食(持ち込み)休憩をはさんで湿生花園の園内をもう一回りすることで秋の山野草をじっくりと堪能することができた。

 

 

 

仙石原すすき草原へ

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