平成28年(2016)11月下旬に差し掛かる時期、紅葉シーズンを迎えた箱根のまちを歩き、谷を歩く。
この年の南関東は11月に気温の低い日が多かったため、横浜の丘陵など平野部でも紅葉の始まりが例年より一週間ほど早く、日当たりのよい場所では11月23日頃には見頃を迎えた。箱根も例年よりは若干紅葉が早まっていたのではないだろうか。
今回の箱根めぐりでは、一日乗車券「トコトコきっぷ」を利用する。この切符で小田原駅〜箱根湯本駅〜強羅駅の登山鉄道全線と強羅駅〜早雲山駅のケーブルカーが乗り降り自由となる。
「トコトコきっぷ」は「箱根フリーパス」のような磁気キップではないので、小田急小田原駅の窓口で購入。
※トコトコきっぷは販売を終了しており、登山鉄道全線が乗り降り自由の「のんびりきっぷ」が販売されている(2024年7月現在)。
3.千条の滝、蓬莱園から岡田美術館庭園へ
箱根登山鉄道・箱根湯本駅から国道一号線沿いのまち歩き。ここからは古湯・箱根七湯を離れて明治以降に開かれた小涌谷、強羅を巡る。このページでは上底倉からバスで移動し紅葉の季節を迎えた小涌谷の三河屋旅館前から千条の滝、蓬莱園、岡田美術館庭園と巡る。
2.宮ノ下駅から堂ヶ島渓谷遊歩道、太閤石風呂通りへはこちら。
上底倉(かみそこくら)バス停。標高およそ460m。時刻は11時まえ。
小田原・箱根湯本から芦ノ湖畔の元箱根・箱根町までを結ぶ路線バスで、底倉温泉・太閤石風呂最寄りの上底倉バス停を出発。「小涌谷(こわきだに)駅」「小涌園」を経て「蓬莱園(ほうらいえん)」まで移動する。
なお今回利用している「トコトコきっぷ(一日乗車券)」での乗り放題は箱根登山鉄道・箱根登山ケーブルのみ。バスはICカード(Suica、PASMO)で乗車するか、現金払い。
※トコトコきっぷは販売を終了しており、登山鉄道全線が乗り降り自由の「のんびりきっぷ」が販売されている(2024年7月現在)。
国道一号、蓬莱園バス停そば。標高およそ625m。
千条の滝へは、手前にチラッと見える石段を下りていく。
蓬莱園バス停そばの、三河屋旅館(みかわや りょかん)。大正6年(1917)竣工。国の登録有形文化財。
入母屋千鳥破風(いりもや ちどりはふ)の緑青屋根に唐破風(からはふ)の玄関という、御殿のような堂々たる建築。
玄関を入ると、帳場の横には菊水の飾り窓が見られる。館内には数寄屋風の意匠がちりばめられている。
三河屋旅館公式サイト
三河屋旅館は明治16年(1883)、横浜蓬莱町の榎本猪三郎(えのもと いさぶろう)・恭三親子により創業。跡を継いだ恭三は旅館経営のみならず小涌谷温泉の開発に尽力した。参考 「箱根の近代建築 旅館建築」
※三河屋旅館は令和二年(2020)10月より小涌園を運営する藤田観光リゾートの下で「箱根小涌園 三河屋旅館」として営業している。
バス停から蓬莱園に沿って下って行き、千条の滝(ちすじのたき)へ。
旅館千条への分岐を入っていく。
千条の滝への分岐となる山道を入る。
山道を下りてきた。
木漏れ日さす黄葉の道を奥へと進む。
ほどなくして千条の滝に到着。左手には蛇骨川上流部の渓流。
苔むす岩肌を、湧き出でる水が幾条(いくすじ)もの絹糸のような白き流れとなって落ちる、可憐な滝。
滝の水は箱根火山・中央火口丘の伏流水。丸っこい礫(れき。石ころ)が堆積してできた礫岩層の上で浸み出している。
案内板によると千条の滝が一般に知られるようになったのは明治中期。
江戸時代には「小地獄」と呼ばれていた小涌谷(こわきだに。こわくだに)が温泉場として開かれたのは明治になってからのことだが、この滝は三河屋旅館の当主が滝までの道を整備してから広く知られるようになったという。
蛇骨川の渓流。
山道を戻り、蓬莱園へ。
紅葉が見ごろを迎えた、蓬莱園。入園料はかからない。
蓬莱園は大正初期に三河屋旅館の当主が整備した、ツツジ・サツキ四十数種三万株を誇る名園。現在では小涌園が平成27年(2015)に取得、管理している。
蓬莱園の案内図。
※蓬莱園に隣接する小涌園は令和五年(2023)7月にリニューアルオープンした。
画面左上の庭園下部からツツジの植え込みを縫う様に整備された園路をたどり、中腹の広場を経て画面右の国道一号まで上がっていく。
ツツジ園の園路。
国道一号へ戻る。
国道を小涌園バス停方面へ少し戻り、岡田美術館の庭園へ。
岡田美術館の庭園は、美術館に入館せずとも庭園だけを見学することが出来る。
玄関前を通り過ぎて庭園へ。
庭園への坂を上がっていく。
庭園への入園料(300円。2016年現在)は開化亭にて支払い(なお美術館入館者は無料)。
岡田美術館の開館は平成25(2013)年。「開化亭」の名は明治期に当地に存した欧米人向けホテルの名を採ったようだ。
庭園入口。ゆっくり散策して30〜40分の庭園は、公式サイトに案内図の掲載あり。
先に庭園へ。
水流を渡る石橋。
開化亭を見下ろす。
渓流散策コースへ。
渓流に架かる反橋。
反橋から眺める渓流には、滝が造られている。
この渓流は、近代以降の日本庭園に見られる自然主義的庭園を意識しているよう。
それは、県内で見られる名園になぞらえるならば、近代日本庭園のあり方をリードした山縣有朋による古稀庵庭園(小田原板橋)の洗頭瀑や、原富太郎の三溪園(横浜本牧)内苑渓谷歩道のような趣き。それらの渓流をさらに大がかりにして作庭したような印象。
まるで初めからそこにあるかのような渓流。
下流側を見れば、丁寧に石を積み上げて園路からの眺めを創りあげたのが分かる。
反橋の先は一周して戻って来られるようになっているが、訪問時は橋の先の園路が崩れて通行止めだったので、橋の手前側の園路を登って往復する。
渓流を見下ろす位置に造られた、観渓台とでもいうべき一角。
さらに上流へ上がり、木橋を渡る。
苔むす岩の間を縫う様に流れ落ちる渓流の滝。
最上流部から眺める観渓台あたり。
最上部の先は反橋の先と同様通行止めにされていたので、引き返して下っていく。
大きな岩を階段状に配して造り込んだ、野趣あふれる園路。
渓流散策コースから庭園に戻ってきた。
岡田美術館庭園を後にして、すぐ近くの小涌園(こわきえん)バス停から「観光施設めぐりバス」で強羅(ごうら)駅(標高541m)へ向かう。
なお、小田原駅行のバスは強羅駅へは行かずに山を下ってしまうので、乗り間違えないように。
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