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東丹沢・堂平のブナ林


平成27年(2015)の5月下旬、淡い新緑から青葉へと移ろいつつある東丹沢・堂平(どうだいら)の初夏のブナ林を見に行く。

登山者にとっての堂平は、概して宮ヶ瀬側を起点とした丹沢山(たんざわさん)への行きまたは帰りに通過するか、丹沢主脈の縦走(じゅうそう)の途中でわざわざ往復二時間以上をかけて寄っていくか、ということになる。

山に行くのに電車・バスの公共交通機関に頼る身としては、堂平はなかなか縁がなかった。なにしろ、もっとも距離の近い宮ヶ瀬側からアプローチする場合でも宮ヶ瀬湖畔の三叉路バス停が最寄となるので、丹沢山登山口まで舗装路の県道・林道を片道だけでもおよそ三時間半、延々と歩いて行かなくてはならない。




小田急本厚木(ほんあつぎ)駅5番のりばから宮ヶ瀬ダムハイキングパスを利用し、神奈中バス厚20系統・宮ヶ瀬(みやがせ)行の始発に乗車。終点宮ヶ瀬の一つ手前、三叉路(さんさろ)バス停が今回のスタート地点。標高300m、時刻は朝7時40分ごろ。

バス停から青看の「ヤビツ峠」と示された道へ。




宮ヶ瀬北原交差点を左折。ここは県道70号の終点。信号を左にに入って少し進むと丹沢山から延びる尾根・丹沢三峰(たんざわみつみね)の登山口。
なお三叉路の本厚木駅行バス停は信号の先を終点・宮ヶ瀬方面へ少し行ったところ。

県道70号はここ宮ヶ瀬の三叉路から塩水橋(しおみずばし)、札掛(ふだかけ)、登山者には表尾根(おもておね)の登山口最寄として馴染み深いヤビツ峠を経て、大山南麓の蓑毛(みのげ)、秦野市街の名古木(ながぬき)へと通じている。




宮ヶ瀬湖沿いをゆく。対岸に見えるアーチ橋(ニールセンローゼ橋)は大棚沢橋。先ほどバスで渡ってきた。

湖の向こうには高取山(たかとりやま。705m)から仏果山(ぶっかさん。747m)にかけての稜線が続いている。









大門橋(だいもんばし)を通過。

この県道は全長およそ30q。標高761mのヤビツ越えを目指して数えきれないくらいの自転車乗り、バイク乗りが通過していく。

バス利用の大抵の登山者は交差点からすぐの丹沢三峰(たんざわみつみね)登山口へ入ってしまうので、延々と続く舗装道を黙々と歩いているのは自分以外に見あたらない。それでも時々「こんちはー」と声をかけてくれるロードバイク乗りの人もいる。




やがて歩道が無くなり狭い路肩を歩くようになる。




道幅が狭くなってきた。クルマの擦れ違いは結構厳しい。




眼下に渓流。このあたりからキャンプ場がいくつか点在するようになる。最初は長者屋敷キャンプ場。




奥中津渓谷。「キュキュキュキュ、キュウィーッ、キュウィーッ」というカジカガエルの澄んだ鳴き声が響くと、「ああ、初夏の山奥に来たな」と思う。

続いて国際一ノ瀬キャンプ場、唐沢キャンプ場と過ぎていく。




清川村立金沢(かねざわ)キャンプ場(2013年9月廃止)の手前、滝状の堰堤(えんてい)。




キャンプ場の跡地をめぐっては、更地にして地権者に返還するか登山者用駐車場を設置するかでしばらくは紆余曲折がありそうだ。
塩水橋あたりの駐車スペース問題が解決すれば、昔はバスが通っていたというこの地に村営の小型バスが塩水橋経由で札掛あたりまで実現してくれないだろうか、と空想してしまう。とにかく公共交通機関を使う身にとって、中津川源流域の東丹沢や道志川流域の北丹沢は、表丹沢はおろか西丹沢と比べてもアクセスがあまりにもよくない。




青宇治橋(あおうじばし)を過ぎた。









三叉路バス停から歩くこと約2時間、塩水橋(しおみずばし)に到着。標高はおよそ400m。ここまでバス停から7.3q程の道のりを約100m登ってきた。

このあたりは県道の通過点であり、自転車・バイクのほかクルマも入ってくる。




塩水橋を過ぎてすぐの分岐、車止めのゲート脇から本谷(ほんたに)林道に入る。

ここからは通過車両を気にせずにのんびりと歩いてゆく。




瀬戸橋。ここが本谷林道から塩水(しおみず)林道への分岐。




堂平へは塩水林道を行く。
塩水林道はそれまでの県道とは違って勾配が非常にきつく、ヘアピンカーブも多い。路肩も脆く、崖崩れもところどころに見られる。

なお塩水林道、本谷林道から天王寺尾根の登り始め、ともに5月も下旬になるとそろそろヒルの出没に留意しなければならない。雨上がりの後など路面がしっとりしているときは落葉の積もっているところに休憩等でちょっと立ち止まっていると、足元から這い上がってくる。
対策としてはヒル忌避剤を散布した泥除けのスパッツを付けること、万一吸い付かれたときに炙って落とすためのライター・タバコ・携帯灰皿を持っておくことなど。

今回は晴天続きだったこともあり、標高の高いブナ林まで舗装林道を休まずに一気に上がることから、ヒルの心配は全くしなかったし、問題もなかった。




橋の上から廃道の古いアーチ橋(旧瀬戸橋)が見える。




林道に沿って塩水川の渓流。









渓流は幾つもの大きな堰堤を、水音を轟かせながら水量も豊かに流れ落ちている。









ずいぶんと登って行くと、渓流が林道にぐっと近づいてきた。清らかな流れは、長い長い舗装林道歩きを慰めてくれる。









林道沿いにちらほら見られる、ヤマツツジ。




ガードレールの残骸に記された、「ワサビ沢出合(であい)」の文字。ここは丹沢の沢登りのなかでもマニアックなルート、ワサビ沢への入渓点ともなっている。

この先は二万五千分一地形図でも登山道として表示されており、登山地図では吉備人出版「東丹沢登山詳細図」にはもちろん、山と高原地図「丹沢」にもショートカットルートとして示されている。しかし道は相当に荒れており、堰堤の連続する沢から登山道への分岐が分かりにくいので、堂平までのハイキングで来る人が通れるような道とはいえない。登山者にしても、そのまま舗装林道を歩いたところで時間的に大差はない。




ヘアピンカーブが続く。




ところどころ崩落の跡が見られる。




「ポポポポ、ポポッ、ポポッ」と響くのはカッコウやホトトギスの仲間、ツツドリの声。「ピピッ、ピッピキピ、ピッピキピ」はキビタキ。
初夏の山に響き渡る野鳥たちのさえずりが、清々しい。




大がかりな吹付が施された崖地。前方のヘアピンカーブを登って行った先、この崖上からは眺めが良い。




崖上から東を眺める。林道だけでずいぶんと高くまで登ってきた。

視線の先には大山三峰山(おおやまみつみねさん。935m)が見える。標高の割には梯子・鎖が連続するアスレチックのような登山道が登山者に人気の三峰山の先、稜線は南へ延びて大山へと連なっていく。




林道から見下ろす、名もなき滝。




林道を挟んだ上流側にも滝が掛かる。




林業用のロープウェイ。




国土交通省の堂平雨量観測所。ここで標高877m。塩水橋のあたりからおよそ1時間半で5q程の道のりを500m近く登ってきた。




雨量観測所のすぐそば、丹沢山(たんざわさん)への登山口に到着。標高900m。時刻は午前11時過ぎ。

登山口からは標高1567mの丹沢山まで登山道が続く。ここから登り始めて少し行くと、堂平のブナ林が広がる。




ニホンジカ捕獲実施中の告知が掲示されている。




東丹沢県民の森の案内板。 案内図拡大版

札掛周辺には森の散策路があるようだが、このあたりにあるのは林道や登山道だけ。




登山口の少し先が林道終点。




林業用のモノレール。

登山口へ戻り、ブナ林をめざす。




登山口からしばらくは、スギやヒノキの植林地。




今回は堂平のブナに会いにいくのが目的。先を急ぐでもなし、のんびりと登っていく。




樹皮のゴツゴツした、シナノキ。大きな丸っこいハート形の葉をつける。




ホオノキ。幅広の長い葉。ほおば焼きでおなじみ。




しばらく登っていくと、標高1000mを超えるあたりでブナの木がちらほらと現れ始めた。




かなり太い木もある。ただ、かねてから言われている通り、林床(りんしょう)の下草は少ない。




森の斜面は登山者など一般の立入が規制されている。増えすぎたシカによる採食などを原因とした下草の減少は、豪雨の度に土壌の流出を引き起こす。現状では木道を通すなりの手を打たないかぎり、人波の踏圧(とうあつ)にも耐えられないのだろうか。ともあれ、入山までのアプローチがとても不便なことが逆に幸いし、登山道のオーバーユースは食い止められているともいえる。




登山道に沿って登っていく。




本州南岸のブナの山、丹沢。堂平(どうだいら)は、そんな丹沢でも指折りのブナの森。

しかしながら丹沢のブナ林は、90年代ごろから山の乾燥化とともに弱り始めたといわれて久しい。稜線上ではブナの立ち枯れも目立つ。
下草の消失による土壌の流失のほか、ハバチの大発生によるブナの葉の食害、大気中のオゾン濃度、NOxなどの酸性雨、堰堤や林道の大規模工事による裸地化など、森の衰退の原因と考えられている項目は挙げていけばきりがない。




荒廃が心配な堂平のブナ林。豊かな森を次世代につなげるべく様々に手が打たれている。









ブナ林の標柱。奥にはなだらかな斜面の堂平ブナ林が広がっている。
登山口からここまでは、あっという間。ここで終わってしまってはバス停から4時間掛けて歩いてきた甲斐がない。登山道をもう少し上まで登っていく。




シカ除けの柵や落ち葉(土壌)の流出を食い止める柵など、さまざまに手が打たれた森。




生命力豊かなブナの大木。









登山道の向こう、丹沢三峰の稜線がすぐそこまで迫っている。




砂防堰堤の上流側を横切っていく。









瑞々しいグリーンが美しい、新緑のブナ。




この先で合流する天王寺尾根(てんのうじおね)もまた、ブナ林が美しい。合流点から丹沢山山頂へ、また合流点から本谷林道(ほんたにりんどう)登山口へ下りるなだらかな尾根へ、しっかりした体力、脚力があれば美しきブナ林めぐりを堪能できる。五月下旬であれば、ちょっと早いかもしれないがシロヤシオ(ツツジ)もそろそろ開花し始めているころだ。

また丹沢山頂から丹沢三峰(たんざわみつみね)のブナ林へというのも素晴らしいコースと思うが、バス利用で三叉路から歩くなら相当な脚力がないと日帰りではちょっと厳しいし、そもそも気ぜわしい。山頂の山小屋「みやま山荘」で一泊し三峰を下山した後は宮ヶ瀬の旅館みはるで一風呂浴びるプランのほうが、ブナ林の美しさをゆったりと満喫できる。









若いブナも育っている。














林床にはテンニンソウの群落。









日本の深山の象徴、美しきブナの森。









シカ除け柵の向こうは植生が回復しつつある。




一目でそれと分かるまだら模様のブナの幹は、憶えやすく親しみやすい。




ブナ林ではヒノキ林にはいなかったブンブンと小さいハエみたいな虫が顔やカメラに纏わり付き、ちょっと鬱陶しい。この手の虫は総じてメマトイというそうだ。




シナノキ。




大きな丸っこいハート形の葉。




こちらのまだらな幹はオオモミジ。









登山道の向こう、土砂が流出して斜面が大きくえぐれている。




標高およそ1200m。この先さらに急傾斜を登って行けば天王寺尾根に上がれるが、脚の状態があまり良くない。尾根には上がらず、このあたりでブナの森めぐりを終えて引き返すことにする。時刻は昼の12時半を回っている。

本格的な登山から遠ざかって久しいので脚がすっかりなまってしまった。写真を撮る度に立ち止まるためまとまった休憩をほとんど取らなかったとはいえ、たかだか12qの舗装林道歩きでふくらはぎあたりに疲労が溜まってしまっている。現在の脚力ではここから更に山頂までを往復したら帰りの長い舗装林道歩きに耐えられそうにない。

登山道の下りは用意しておいた二本のストックを使い、石突きで木の根を突いて傷つけてしまわないように気を付けながら下りていく。



なお、この先丹沢山まで登れば、その先に延びる1500〜1600mの稜線上は四季を通じて眺望がすばらしい。以下、平成13年(2001)2月の山行記録より。



厳冬期、丹沢山の南隣りのピーク「竜ヶ馬場(りゅうがばんば。1504m)」から見る真っ白な富士山。枝振りのよいシロヤシオ(ゴヨウツツジ)を従え、とても絵になる。



竜ヶ馬場から大山・塔ノ岳のパノラマ。 拡大版
このとき稜線は休憩用テーブルがすっぽり覆われるくらいの積雪があった。丹沢主稜と比べれば起伏がきつくはない丹沢主脈ではあるが、下界より概ね10℃は気温が低い稜線上では雪がカチカチに凍り付いたままのところもあるので、少なくとも6本爪の軽アイゼンやストックは必携。



丹沢山(たんざわさん。1567m)の山頂に建つ、昔の「みやま山荘」。皇太子殿下も御宿泊されたかつての小屋は、ランプの小屋だった。山頂は広々と開けている。



丹沢山から主脈を北へたどっていった最初のピーク、不動ノ峰(ふどうのみね。1614m)への稜線は風衝地の笹原。冬は広大な雪原の斜面が休憩舎の前に広がる。



棚沢ノ頭(たなさわのあたま。1590m)手前あたりでは西面に大展望が開ける。拡大版
ハイキングで人気の牧草地の山・大野山(723m)はここから見下ろすと本当に小さい。



富士山の右隣りにずらりと並ぶ、南アルプスの名だたる峰々。拡大版



鬼ヶ岩ノ頭(おにがいわのあたま。1608m)から西を眺め、岩場を下っていく。



積雪期の岩場の下りは、ちょっと怖い。



県下最高峰、蛭ヶ岳(ひるがたけ。1673m)山頂の蛭ヶ岳山荘。この先、西丹沢に延びていく厳冬期の主稜縦走路は北丹沢へ延びていく主脈縦走路と比べると難易度のグレードが上がる。蛭ヶ岳からの冬の主稜大下りは見るからに怖いので、下ったことは無し。



丹沢山の南、表丹沢の主峰・塔ノ岳(とうのだけ。1491m)山頂から丹沢山へ向かう縦走路。



朝日にキラキラと輝く霧氷(むひょう)が美しい。陽が昇るとともに消えゆく、儚い命。平成13年(2001)2月の山行記録より。




午後1時半ごろ、登山口まで戻り再び林道歩き。林道ではストックの石突きにゴムキャップを被せてノルディックウォーキング。これだけでもかなり楽に歩ける。




瀬戸橋まであと5分程の所に架かっている、苔むした古い欄干の橋。昭和35年(1960)竣工、とある。




銘板に書かれた「ほうきすぎばし」の名に非常に興味を惹かれた。
箒杉といえば、県下では西丹沢・中川温泉奥のそれが登山者・ハイカーにはあまりにも有名だが、塩水林道のこの付近にもどうやら大きな杉がそびえている、ということだそうだ。




ちなみにこちらが西丹沢・箒沢集落の箒杉。前後の木々との遠近感をまるで無視したかのような巨木は樹高45m、胸高の幹回り12m、推定樹齢2000年。おそらくは県下最大、全国的に見ても有数の樹であり、国指定天然記念物となっている。
画像は平成11年(1999)7月の山行記録より。このときは奥箒沢山の家に泊まって翌日夜明けから登り始めるプランにしたためゆっくりと巨木に会うことができた。
私が山を始めるより前の頃はバスの終点が現在の西丹沢自然教室ではなく箒沢(西丹沢)だったため、山の行き帰りに必然的に寄ることになっていたそうだ。




大門桟道のあたり。県道に入ってからは車の追い越し・擦れ違いも多いので十分に気を遣いながらひたすら黙々と歩いてきた。

三叉路に到着した時にはすでに午後4時51分のバスが出てしまった後なので、さらに15分歩いた先の終点・宮ヶ瀬へ。帰りはそちらから乗車し、帰途につく。今回はトータルで30q、歩数にして5万歩。久々の長丁場となった。
なお宮ヶ瀬バスターミナルそばにはトイレも有る。隣接する水の郷には土産・食事処もある。時間があれば旅館みはるでの日帰り入浴も可能。


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